音楽コラム集|映画研究部NOAH
2021.04.08
Appleの動画配信サービス<Apple TV+>で、オリジナル作品の「ビースティ・ボーイズ・ストーリー」が配信中だ。本作はニューヨーク出身の3人がハードコア・パンクバンドを結成したのち、大セールスを記録した白人ヒップホップグループとしてのデビューを経て、MCAことアダム・ヤウクの死までをメンバーが振り返るドキュメンタリー映画となっている。監督は彼らの多くのMV制作に関わったスパイク・ジョーンズ。
恐らく彼らの熱狂的なファンにとって初めて知るような事は本作で語られないが、創世記から今に至るまでのビースティーズの生々しい映像は必見だ。
本作はドキュメンタリーにありがちなカメラ密着や匿名のナレーションなどのわざとらしい演出はなく、マイク・Dとアドロックによるライブ・トークが基になって進行していく。
過去の映像を交えながら「自分たちの歴史を自ら語る」というありそうでなかったドキュメンタリー形式は非常に彼ららしく、二人の話し方、テンポの良いやり取りはそれだけでパフォーマンスになっている。80年代の音楽シーンをひっくり返すような革新的な彼らのアイデアや旺盛な好奇心について語られるが、ビースティ・ボーイズがいかに突出した存在であるかの再認識と新しい発見があった。
RUN-DMCのSucker MC'sに大いに影響を受けたビースティ・ボーイズは大きく方向性を変え、ラップを書くようになる。特にラップスキルが無い3人だったが、あのマドンナのライク・ア・ヴァージン・ツアーの前座を任されるなど大舞台に立つチャンスを与えられると、常軌を逸した失礼すぎるパフォーマンスを武器に成功を収め、3人は「初の白人Bボーイ」となった。1986年にデフジャムから発表したデビューアルバム「Licensed to Ill」は全米1位の大ヒットを記録する。
第一作目の信じられない成功はライブ・パフォーマンスを激化し、オーディエンスが暴徒化するなど収集がつかない状態になってしまう。自分を見失い、この生活に疲れた彼らはNYからLAの豪邸に移り、才人プロデューサーのダスト・ブラザーズと手を組んで「1作目を超える出来」と語る秀逸なサンプリングを盛り込んだ「Paul's Boutique」を1989年に発表するが、これが大コケに終わってしまう。(これはリリース当時の話として語られており、この2ndアルバムは「ヒップホップの最高傑作」とも評されている)
失敗に終わった2作目で借金がかさみLAからNYに戻った彼らはサンプリングをやめ、再び楽器を演奏するスタイルを始める。1992年にリリースされた「Check Your Head」は彼らのスタイルの変化に賛否はあったものの、再び大ヒットを記録する。
本編ではこの後「Hello Nasty」リリース辺りまでが振り返られ、MCAことアダム・ヤウクの死について触れて終わりとなる。
今や50歳を超えたメンバーによる思い出話で構成される本作だが、そこには生き生きとしたヤウクの活躍が語られる。アドロックとマイクDはヤウク無しではありえないと音楽活動を休止しており、悪ガキティーンエイジャーの頃から変わらない強い関係を随所に感じられる1本となっている。
配信はApple TV+限定。ファン必聴のドキュメンタリーなので、是非チェックしてみて欲しい。
監督:スパイク・ジョーンズ
キャスト:マイクD
アダム・ホロヴィッツ
画像引用元:https://www.apple.com/tv-pr/originals/beastie-boys-story/
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