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音楽コラム集

【コラム】映画研究部NOAH 第36回「メイキング・オブ・モータウン」

2022.01.18

常識破りの世界最強レーベル誕生秘話!

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アメリカのポップスに興味がある人なら「モータウン・レコード」という音楽レーベルの名を一度は耳にしたことがあるのではないだろうか。

モータウン・レコードは1959年にアメリカのデトロイトで設立され、史上最も商業的成功を収めた音楽レーベルだ。

今作はその創設者であり、モータウン・レコードを世界一の音楽レーベルまで育て上げたベリー・ゴーディJr.を軸にモータウンの歴史と魅力を余すこと無く伝えるドキュメンタリー映画だ。



【モータウンレコードとベリー・ゴーディJr.】

「モータウンレコードって何?」という方はまずWikipediaで歴代の在籍アーティストを御覧頂きたい。これだけで1960~2000年代のアメリカのポップス史を俯瞰出来るくらい豪華な面子が揃っている。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%82%A6%E3%83%B3

特に最盛期の1960~70年代は数多くのスターを排出し、BeatlesやRolling Stones 、Simon & Garfunkelなど錚々たるアーティスト達とチャート争いを繰り広げていた。

そんなスター集団を束ねて、トップに君臨するのが今作の主役ベリー・ゴーディJr.である。

アメリカショービジネス界の首領といっても良い人物なのだから、それこそマフィアの親玉のような強面の男かと思いきや、冒頭から人の良さそうなシニア男性が「昔はマジで大変だったんだよ!風呂場でボーカル録ってたんだから!」と豪快に笑いながら語り始めるのだ。

その傍らで負けじとニッコニコなのがモータウンレコードの副社長を務めたスモーキー・ロビンソン。彼はミラクルズのリードボーカルとして初期のモータウンを盛り上げただけでなく、その後多くのアーティストの楽曲制作を手掛けた敏腕プロデューサーだ。

今作はこの2人の昔語りを中心に進行するのだが、その語り口は前述したとおりのテンション感で、観る側としても気張らずにスンナリ話に入っていける。

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【革命的なヒット曲量産システム】

モータウン・レコードが成し遂げた偉業は数多くあるが、中でも特筆すべきはそのアーティストと楽曲をプロデュースするシステムだ。

ベリー・ゴーディは独立する前に務めていたフォードの車製造ラインから着想を得て、様々な部門のエキスパートを集めてアーティストをプロデュースする集団を作った。

作詞、作曲、ダンス、バックバンドから立ち振舞いを指導するマナー講師まで、完璧な商品としてパッケージされたアーティストを作り上げるシステムは現代のアーティストやアイドルのプロデュース体制と遜色無い。

更に「品質管理会議」と称して出来上がった楽曲を作曲家、プロデューサー達と品評し投票させることで、各々の競争心を煽り楽曲の品質向上に繋げていった。

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【アーティスト達とベリー・ゴーディの明暗】

1960年代にはやる事なす事大当たりで隆盛を極めたベリー・ゴーディーだが、その後は時代の変化に取り残される形で勢いに陰りが見え始める。

特に公民権運動やベトナム戦争など社会に大きな変化生じた時代に呼応する形で「社会的なメッセージを楽曲にしたい」というアーティスト側と、「自分たちはあくまで商業路線で、政治は扱うべきではない」というベリー・ゴーディが真っ向から衝突する形となった。そんな中、1971年にマーヴィン・ゲイの歴史的名盤「What's Going On」がリリースされることで、今まで政治的なメッセージは積極的に扱ってこなかったモータウン・レコードも時流に逆らえずにリリースする楽曲の作風も変化していき、さらなる発展を遂げた。

余談だが、本作中でWhat's Going Onが紹介される際、本来のミックスではなく、途中までコンガとボーカルのトラックだけ抜き出した音源が流される。

幾重にも折り重なったマーヴィンのボーカルが本当にちょっと尋常ではない美しさで、ここだけでも今作を視聴する価値があると断言出来るほどだ。

【国内アーティストへ与えた影響】

モータウンアーティストから影響を受けたと公言するミュージシャン、プロデューサーは非常に多い。

特に今最も世間に認知されており、モータウンの影響を公言しているアーティストといえば星野源氏ではないだろうか。

自身の代表曲の一つである「恋」を「モータウン・コア」と表現しており、また彼が大きな影響を受けているという邦楽界のビッグネーム細野晴臣氏もモータウンを始めとしたアメリカのポップスに大きな影響を受けていると公言している。

そういった意味ではモータウンサウンドは昔から我々すぐ身近にあったと言えるのかもしれない。

【まとめ】

モータウン・レコード60周年の記念作品ということもあり、今作はベリー・ゴーディの「陽」の部分に焦点を当てているが、この人「陰」の部分もなかなかに強烈で結構えげつない事をやっているので、気になった方はぜひ調べてみてほしい。

また今作の見どころの一つとして「モータウン・レコード社歌」を巡るやりとりがある。この社歌がもの凄くダサい上にブラック企業丸出しの内容なのだが、とても嫌そうに歌う社員達とノリノリで歌っているベリー・ゴーディとスモーキー・ロビンソンの取締役コンビの対比が微笑ましいので必見だ。

こういったドキュメンタリー映画は、インタビューと当時の映像を行き来する構造から退屈なものになってしまいがちだが、今作は出てくる面々がアメリカポップス史の偉人ばかりで、「この人もこの人も出てきたー!」と逆に目が回るほどに楽しめる仕上がりになっているので、アメリカのポップスに興味のある方はぜひ一度視聴して欲しい!

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・作品データ

2019年製作

112分

アメリカ・イギリス合作
原題:Hitsville: The Making of Motown
配給:ショウゲート

監督:ベンジャミン・ターナー ケイブ・ターナー

画像引用元:https://eiga.com/movie/92626/gallery/

https://cinerack.jp/makingofmotown/