音楽コラム集|映画研究部NOAH
2022.01.18
今回ご紹介する作品は「シティライツ」や「夏の手」などで知られる人気漫画家、大橋裕之の傑作「音楽と漫画」を原作に、岩井澤健治が監督を務める異色アニメーション映画「音楽」だ。
音楽にまつわる映画作品を紹介する当コラムにとってこれ以上ないタイトル!
【あらすじ】
高校3年の夏、不良学生の研二は友人の大田、朝倉と思いつきでバンドを結成する。
全く楽器経験のない3人は連日バンド練習に打ち込むが、ひょんな事から音楽フェス出演の機会が舞い込んでくる。他校の不良グループが妨害を企てる一方、突然「バンドは飽きた」と宣言する研二。果たして彼らは初舞台はどうなってしまうのか?
【7年以上の歳月をかけて実を結んだ執念の一作】
まずこの作品の何が凄いのかといえば、監督がこの作品にかけた意気込み、こだわり、熱量が常軌を逸しているのだ。
・製作期間7年超え
・作画枚数は40,000枚超(30分アニメで平均3,000 〜 5,000枚)
・個人制作で全て手描き
・作中のライブシーンを撮影するために「大橋裕之ロックフェスin深谷」と題して実際に野外でスライブイベントを開催する(しかも入場無料)
など、現代のアニメ制作のセオリーを逸脱したプロセスで出来たこの作品は 同年上映されたアニメーション作品の中でも異彩を放っていた。
【絶妙なバランスのキャラクター描写】
今作はロトスコープという手法で制作されている。
ロトスコープとは平たく言えば役者が実際に演じた映像をトレースし画に起こすという作画方法で、往年のディズニーアニメで用いられた事でも知られている。
現代でも細かなアクション描写が必要な場面では一部で用いられている手法だが、この手法はアニメキャラに当てはめるとリアル過ぎて逆に違和感につながりやすく、バランス調整が非常に難しい。
だが今作は全編ロトスコープで制作されているにも関わらず、違和感無くスンナリと受け入れることが出来た。この違和感の無さはどこからくるものだろう?と思い監督のインタビューを調べてみると北野武の作品等にみられる「間」にこだわったという発言があった。
確かに今作はキャラクターが微動だにせず数秒静止した後に急に動き出す、という描写が随所に見られ、それがロトスコープでは失われがちな動きのメリハリに繋がり、アニメーションとしての快感が得やすい作りになっている。
【音楽好きにはたまらない人選】
今作を紹介する上で欠かせないのが、作中の楽曲群やキャスティングだ。
まず主人公の研二役に坂本慎太郎(ex.ゆらゆら帝国)を起用!
前述した「大橋裕之ロックフェスin深谷」の出演者にGELLERS、スカート、ホライズン山下宅配便など邦楽界の実力者を揃えており、作中のフェスの音源はこのイベントの模様をそのまま流す形となっている。
主題歌はドレスコーズ書き下ろしの「ピーター・アイヴァース」。これも本当に名曲!
あとやっぱりこういった作品には欠かせない重鎮竹中直人が研二の敵役の大場を演じ脇を固めている。
そしてなんといっても今作はあの岡村靖幸を史上最も贅沢な使い方をした作品といえるだろう。筆者はあまりの衝撃で爆笑してしまった。ぜひ最後まで観て確認して欲しい。
【まとめ】
パッと見の癖の強さで敬遠してしまったり、どことなく漂うサブカルな雰囲気を感じて避けてしまう方もいるかも知れないが、騙されたと思ってぜひ一度視聴して欲しい!
純アニメーション作品としてオリジナリティと質の高さを両立した傑作!
【作品データ】
原作:大橋裕之「音楽 完全版」
公開:2020年
監督:岩井澤健治
プロデューサー:松江哲明
アソシエイトプロデューサー:迫田明宏
協力プロデューサー:九龍ジョー
プロジェクトマネージャー:中島弘道
脚本・絵コンテ・キャラタクターデザイン・作画監督・美術監督・編集:岩井澤健治
撮影・編集:名嘉真法久
音響監督:山本タカアキ
音楽:伴瀬朝彦 GRANDFUNK 澤部渡(スカート)
ロトスコープミュージシャン:Gellers ホライズン山下宅配便 澤部渡(スカート) 安藤暁彦
劇中曲:GALAXIEDEAD 井手健介 野田薫 オシリペンペンズ
主題歌:ドレスコーズ「ピーター・アイヴァース」(キングレコード/EVIL LINE RECORDS)
製作:ロックンロール・マウンテン Tip Top
2019年/日本/ヴィスタサイズ/5.1ch/カラー/71分
配給:ロックンロールマウンテン
配給協力:アーク・フィルムズ
宣伝:Tip Top 平井万里子 下北沢映画祭
©大橋裕之 ロックンロール・マウンテン Tip Top
画像引用元:https://on-gaku.info/#a
https://eiga.com/movie/91358/
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