サウンドデザイナー特集!代々木G1stでバンド録音に挑戦!
2011.01.21|NEWS
普段練習に使用しているリハスタでもできる、セルフレコーディングの基本を覚えよう! バンド演奏を録音する場合、大きく分けて「バラ録り」と「一発録り」の2つの方法がある。バラ録りとは、まずドラムを単体で録って、その上にベースを重ね、次にギター...といった具合に各パートをバラバラにダビングしていく方法にことで、それに対して一発録りは、すべての楽器を一緒に録音する方法のことだ。
バラ録りは、各パートを別々に録ることで、他の楽器の音がマイクに被らずに済むのがメリットだ。パートごとにトラックを完全に分けられるため、それぞれの音の抜けが良くなり、後々の編集作業もしやすい。デメリットは、1パートずつ録っていくために時間がかかってしまう点だ。
一方、一発録りは全員が同時に演奏するため、バンドとしてのノリが出しやすいのがメリットだ。バンドの一体感も出せるので、プロミュージシャンもこの方法でレコーディングすることが多い。また、時間をかけずに録れるので、バラ録りに比べてスタジオ代が安く済むという利点もある。デメリットは、録音中に1人がミスをすると、もう一度最初からやり直さなければならないことだ。よってある程度演奏に自信があるバンド向きと言える。
【一発録り】バンド全員で演奏して、全パートを一気に録っていくスタイル。リズムパートのみを一発録りして、リードギターやボーカルは後で重ねるという、バラ録りと組み合わせたスタイルもある。
【バラ録り】1人ずつブースに入ってパートごとに録音していくスタイル。ミスした部分だけを録り直せるなど、音質面でのクオリティを重視して、入念に作り込んでいくことができる。
撮影協力アーティスト:THE SCRAP SCRAP大分県出身の小野瑞貴(g&vo)と高見聖一(ds)、北海道出身の立岡高文(b)による3ピースのガレージロックバンド。ストレートを投げるのが嫌いで、ひたすら変化球ばかり投げているという彼らの音楽を聴きに、ぜひライブに足を運んでみてほしい。詳しい情報は、彼らのMySpace(
http://jp.myspace.com/thescrapscrap)か、ホームページ(
http://thescrapscrap.com)を参照してほしい。
【バンドで使用する主な機材類】 ここではバンド録音をするうえで用意しておきたい、最低限必要な機材を紹介しよう。まず演奏を録音するレコーダーだが、「MTR」か、パソコンを中心とした「DAW」のどちらかを用意する。MTRは動作が安定しており、持ち運びやセットアップがラクなので、リハスタに持ち込んだ際にも扱いやすい。だが、録音可能なトラック数が制限されるので、その使い方に工夫が必要だ。
対してDAWは、パソコンのスペック次第で録音トラック数が無限に増やせるので、たくさんのパートを重ねられるなど、かなり贅沢なレコーディングが行える。ただし、パソコン以外に、マウス、キーボード、多入力のオーディオインターフェイスなどが必要なので、周辺機器の持ち込みや準備に手間がかかるのが不利な点だ。
この他に必要なものとしては、ベースをライン録音する際にインピーダンスを変換する「DI」や、楽器の音を拾う「マイク」、機材をつなぐための「ケーブル」などがある。もし最大8トラックまで同時録音が可能なMTRを使うなら、8本分のマイクを用意しておくといいだろう。演奏時のモニタリングに使う「ヘッドホン」は、メンバーの人数分揃えておこう。
【レコーダー(DAW)】パソコンを中心に、DAWソフトやオーディオインターフェイスを組み合わせた「DAW」のシステム。持ち運びがラクなノートPCを使うのがオススメだ。
【レコーダー(MTR)】
バンドを録るなら、MTRは8トラック以上同時録音できるものを選ぼう。写真のZOOM R24は同時録音は8トラック、同時再生は24トラックまで可能。
【DI】
ベースをライン録音する際は、DI(ダイレクト・インジェクションボックス)を通してインピーダンスを合わせてやると、高音質で録れる。写真はラジアルのJ48
【マイク&ケーブル】バンド録音では一度にたくさんのマイクとケーブルを使用する。大抵のリハスタではシュアSM58かSM57などが無料で借りられるので、それを利用するといい。
【ヘッドホン】ヘッドホンは演奏時のモニタリングで使用する。特に一発録りを行なう場合は、人数分のヘッドホンが必要だ。こちらもリハスタで貸してもらえる
【今回の取材で使用したリハーサルスタジオ】 本特集の取材場所として使用したのは、東京・渋谷区にあるサウンドスタジオノア代々木店に、新たにオープンした「G1スタジオ」だ。同スタジオは11.5帖の練習室に、4帖にサブルームを併設しており、サブルームを録音時にはコントロールルームとして使うことができる。
サブルームにはヤマハのモニタースピーカー「MSP5 STUDIO」と、RMEのUSBオーディオインターフェイス「Fireface UC」を常設し、DAWソフトをインストールしたパソコンを持ち込めば録音システムの構築が素早くできる(※)。また、ドラム録音に最適なマイクをチョイスした「ドラムマイク・セット」や、モニタリング用のキューボックスもレンタルできるなど、バンド録音に最適な環境が揃っている。
※Pro Tools LE8など専用のハードを必要とするものは除く
サウンドスタジオノア代々木店G1スタジオ練習室は3〜5名規模のバンド演奏に最適なコンパクトサイズだ。この部屋の最大の特徴は、80年以上の歴史を誇る国産のドラムメーカー、SAKAE Drumsのドラムセットを入れていることだろう。
サブルームの全景。練習室の中が大きな窓から見渡せるので、機材の様子がチェックしやすい。
練習室とサブルームの間は、オーディオ信号やUSBの信号が行き来できるように、リンク用のパッチでつながっている。これを利用すれば、練習室の演奏を、サブルームに設置したレコーダーで録音することができるというわけだ。
【「バラ録り」のセッティング法】ここからは実践編だ。今回は「ギター&ボーカル、ベース、ドラムという3ピースバンドを、8トラック同時録音対応のMTRで録る」というシチュエーションを例に、基本的なマイクの立て方などを紹介していこう。まずは、バラ録りでの各パートのセッティングからみていこう。1.ドラムのレコーディング バラ録りの場合、8トラック同時録音が可能なMTRならば、ドラムにマイクを最大8本立てられる。そこで、ここではマイクを8本フルに活用して録ってみよう。内訳は、キックに1本、スネアに1本、トップに2本、タムに3本、ハイハットに1本だ。このように、キットの1つ1つにマイクを立てることで、好みのバランスが作りやすくなるのだ。ここではシュアのSM57やSM58による基本的なマイキングと共に、より本格的なマイキングも紹介するので参考にしてほしい。
【キック】 SM58をチョイスして低音をしっかり拾う
キックは低音感をしっかり録りたいので、低音に強いマイクを選ぼう。ここでは、どのリハスタでも必ず置いてあるシュアの「SM58」をセレクトした。これはシュアのSM57よりもローを収音しやすいマイクでキック向きと言える。立て方はキックの前面の穴に突っ込んで、ビーターの打点に向けるのが基本だ。奥に突っ込むほどビーターを打つアタック感が強調されるが、低音や銅鳴り感が多く欲しい場合は突っ込みすぎない方がいい。
↑キックの収音用マイクには、低音に強いシュアSM58をチョイスした。ウィンドスクリーンが付いているので、キックの風圧にも強い。
↑マイクのセッティングを横から見たところ。このように、かなり思い切って突っ込んだ方が、ビーターのアタック音がしっかり録れる。
↑マイクをより低音の収音に強いモデルに変更したところ。写真は
AKGのD112で、中低音をしっかり捉えたファットな音で録れる。また、オーディオテクニカのATM25を選ぶと、よりドンピシャな音を録りたい時に威力を発揮する。
↑これはD112を使って、キックにセットしたところ。マイク本体が見えなくなるぐらい突っ込んで立てているのが確認できる。
【スネア】 スネアの縁を狙いアタック音をしっかり録る スネアの収録では、打面を叩いた時のアタック音をしっかり捉えたいので、中高域に特性のあるマイクを選ぶといい。ここでは、プロの現場でもスネア用に使われるシュア「SM57」をセレクトした。ドラマーの演奏の邪魔にならないように、スネアの縁を狙って立てるのがコツだ。距離は、打面から遠ざけ過ぎるとアタックが弱くなり、ハイハットなど他のキットの音がマイクに被りやすくなるので、なるべく打面に近づけよう。
↑マイクはシュアのSM57をセレクト。スネアの打面を捉えつつ、演奏の邪魔にならないように、スネアの縁を狙うのがポイントだ。
↑打面からの距離は離すのが基本だ。ハイハットぼ音の被りが気になる場合は、マイクがハイハット側に向かないように調整しよう。
【トップ】 キット全体を狙い、シンバルをキレイに録るドラマーの頭上に立てる「トップ」のマイクは、キット全体の音とシンバル類を収録するためのものだ。シンバルのシャリッとした高域が拾えるシュアSM57を立てて、金物の音を満遍なく狙おう。シンバルに近づけ過ぎるとアタック音ばかりが強調されて余韻がキレイに残らないので、シンバルの30〜50cmくらい上から狙う。なお、AKG C451などのコンデンサーマイクに替えると、金物のシャキッとした音がキレイに録れる。
↑トップのマイクはドラムキット全体をバランス良く録るように立てるのがポイントだ。シンバルの30〜50cmくらい上を狙おう。間隔は大体両側のトップシンバルと同じ間隔でいい。左右のマイクのセンターにキックとスネアがくるように、立てる位置を決めよう。
【タム類】 やや離し気味にマイクを立て、銅鳴りも録る。 タムはハイタムとミッドタム、フロアタムの3種類を使うことが多い。立てるマイクはダイナミック型が一般的で、スネアと同じくシュアSM57を使えばOKだ。立てる位置は、スネアより若干打面から離した方が、タム独特の銅鳴りを抑えることができる。なお、スネアと違うマイクを使うと、ドラム全体の音像により立体感が出てくるので、例えばエレクトロボイスのダイナミックマイク「N/D468」などに替えてみるのも手だ。
↑スネアに比べてやや離し気味に立てた方が、タム特有のローがしっかり録れる。マイクとの距離は大体5cmくらいを目安にするといいだろう。
↑マイクをエレクトロボイスのN/D468に変更したところ。ゼンハイザーMD421などもタムの収録によく使われるマイクだ。
【ハイハット】 スネアの音が被らないように距離を決めるハイハットもトップと同じように、金物のシャキッとした音をキレイに録りたいので、中高域に特徴があるシュアSM57をチョイスした。また、トップと同じく、AKG C451などのコンデンサーマイクもオススメだ。狙う位置はハイハットの縁よりも若干内側がベストだ。マイクをハイハットに近づけ過ぎるとローが強調されてしまい、離し過ぎると今度はスネアの音が被ってくるので、丁度いいポイントを探ることがポイントになる。
↑マイクはシュアSM57をチョイスし、ハイハットの縁よりもやや真ん中の軸寄りを狙う。ハイハットを開いた時にマイクとぶつからないように距離をとろう。
↑AKGのC451を用いた場合のセッティング。基本的な立て方はシュアSM57と変わらないが、スネアの音を拾いやすくなるので、マイクの向きなどで被りを抑えてやるといい。
2.ベースのレコーディング ベース録音は、ベースアンプを鳴らしてマイクで録った音と、DIを使ってラインで録った音をミックスするのが一般的だ。マイクで録った音は、低音感はしっかり出るがフレーズが見えにくく、ラインで録った音はフレーズはハッキリ聴こえるものの、曲によっては固すぎる印象になる。そこで、両方を同時に別トラックに録り、ミックス時に混ぜ合わせることで、曲に合うように音を作り込むのだ。
録り方は、まずベースをDIにつなぎ、DIで信号を2系統に分岐する。分岐した片方をMTRに送ってライン録音し、もう片方はベースアンプに送ってマイクで収録する。よって、MTR側は「ライン録音用」と「アンプ録音用」の2トラックを用意しよう。
使用するマイクだが、ベースアンプにはキックと同じく、低音に強いシュアSM58をチョイスした。大きめのベースアンプには、大抵複数のスピーカーが入っているので、音を鳴らしながら1つずつ耳を近づけてみて、好みの鳴り方をしているスピーカーにマイクを立てよう。距離はなるべく近づけた方がローがしっかり録れる。
また、ミッドに特徴がある、中域がブリブリ言うベースサウンドを作りたい場合は、マイクにAKGのD112などを使うのもオススメだ。
↑バラ録りの場合は録音可能なトラック数に余裕があるので、ベースはラインとマイクの両方で録るといい。上の写真の①がライン録音のセッティングで、フレーズと芯をしっかり録ることができる。一方、②がマイク録音のセッティングで、こちらは低音感をしっかり録るためのものだ。写真のベースアンプのように、キャビネットにスピーカーが複数入っているモデルは、どのスピーカーが一番気持ちいい音を出しているかをチェックすることが大切だ。
①DIを使ったライン接続↑ベースはDIを経由させて録るのが一般的だ。DIはベースから出力される信号を、レコーディングに最適なインピーダンスのライン信号に変換する働きがある。また、ベースの信号を分岐する役割もあるので、今回のようにマイクとラインの両方で録りたい場合に必携だ。
↑
【ベーシックな接続法】まずDIでベースの信号を分岐し、片方をそのままライン録音して、もう片方をベースアンプから鳴らしてマイクで録る。これにより、ベース本体のダイレクトなサウンドをライン録音することができる。
↑
【応用的な接続法】まずベースを直接アンプに接続し、その音をマイクで録音しつつ、アンプヘッドのサウンドキャラクターを活かしたライン録音が可能だ。
②アンプ録りでのマイクの立て方↑マイクは低音を録るためのものなので、低音向きのSM58を用い、アンプのサランネットにくっつくくらいベタづけで立てる。
↑こちらはキックの収音用として紹介したAKGのD112。ベースアンプの低音を録るマイクとしても威力を発揮する。
3.ギターのレコーディング ギターを録る際は、なるべく大音量でギターアンプを鳴らそう。その方がアンプのポテンシャルをフルに発揮でき、低音もしっかり鳴らせる。立てるマイクはシュアのSM57とSM58のどちらでもOKだ。SM57はエレキギターのエッジ感を録るのに向いており、SM58は低音感を強調したヘヴィなサウンドが録れる。
キャビネットに複数のスピーカーが搭載されている場合は、ベースアンプと同様に1つ1つ耳で聴いて一番鳴りのいいスピーカーにマイクを立てよう。距離はネットに付くくらい近づけるのが基本だ。また、コーンのド真ん中を狙うと高音がはっきり出て、中心から外していくとまろやかさが出せる。必要なギターサウンドを、マイクの位置と距離で決めていくといい。ちなみに、ヘヴィロック系のサウンドにはオーディオテクニカのダイナミックマイクATM25がオススメだ。
↑ギターアンプの収録にはシュアのダイナミックマイクSM57を使用。プロの現場でもギター録音の定番アイテムとして使われているモデルだ。
↑マイクとアンプの距離は、かなり近づけた方がダイレクトなギターサウンドが録れる。ネットにスレスレか、くっつけてしまっても構わない。キャビネットの中に複数のスピーカーが入っている場合は、どれか1つを狙うとエッジがしっかりしたギターサウンドが録れる。
4.ボーカルのレコーディング 一般的に、ボーカルのレコーディングによく使われるのは、コンデンサータイプのマイクだ。ダイナミックマイクよりも広いレンジで収音できるため、細かいニュアンスまでキレイに録れる。だが、ダイナミックマイクもボーカル録りに有利な点が多々あり、パンクやオルタナ系の勢い重視の曲では、中高域に特徴のある力強い歌が録れる。シュアのSM58のようにウィンドスクリーンが付いているモデルなら、息がマイクに当たって発生するノイズ、通称「吹かれ」が軽減されるので、マイクを手で握って歌いたい人にもオススメだ。
マイクと口との距離は、コブシ1個分空けるのが基本だ。この距離を一定に保てないと、歌の音量にムラが出てしまう場合が多い。また、譜面や歌詞カードを見ながら歌う場合は、紙をめくる時の「カサカサ」というノイズが入りやすいので注意しよう。
↑ボーカル録音の様子。今回はどのリハスタにも大抵置いてあるシュアのSM58を使用してセッティングを行った。
↑マイクと口との距離は、歌いやすさなどにもよるが、コブシ1個分くらい空けるのが基本だ。また、距離をキープして歌うことを心掛けよう。
↑こちらはコンデンサーマイクのロードのNT-2000を設置したところ。コンデンサーマイクの場合は、SM58などのダイナミック型に比べると吹かれが起きやすくなるので、気になる場合は写真のようにポップガードを取り付けるといい。
【「一発録り」のセッティング法】
続いて一発録りのセッティング法を見ていこう。マイクなどの基本的なセッティングのポイントはバラ録りと変わらないが、音の被りの問題があり、使用できるチャンネル数にも制限があるため、それに応じた工夫が必要となる。ここでは、その要点を紹介しよう。
↑「一発録り」とは普段と同じようにバンド全員で演奏しながら、一緒に録音する方法だ。バンドが持っているノリやグルーブが出しやすく、多少のミスも気にならないほど臨場感あふれるサウンドで収録できる。
一言で「一発録り」と言っても、その方法にはいくつかの選択肢がある。1つ目は、普段の練習と同じように、音の被りなどを一切気にせず、同じ室内でガンガン音を鳴らして録音する方法だ。被りがあるとミックス時にバランスを録るのが難しくなるが、かえって音のなじみがいい、まとまりのあるバンドサウンドに仕上がることも多いので試してみるといい。
2つ目は同じ室内で演奏しながらも、互いの音の「被り」を最小限に抑える方法だ。ベースはラインのみで録音し、ドラムとギターアンプはマイクで録るが、機材の配置などでなるべく音が被らないように工夫する。この場合、ベースはライン信号のみとなるので、モニタリングにヘッドフォンが必要だ。
3つ目は、アンプシミュレーターなどを利用して、ギターとベースを両方ともラインで録る方法だ。これなら、マイクで録音する楽器はドラムだけになるので、音の被りを気にする必要はない。バラ撮りと同じくらい、ミックスがラクになるのも利点だ。
なお、ボーカルは楽器を一発録りした後にダビングするのが一般的だが、録音時に一緒に仮歌を歌ってもらうと、曲構成が把握しやすく、演奏のノリも格段に違ってくる。この時、歌がドラムのマイクなどに被らないように、できれば別室で歌うのが理想だ。
限られた録音トラック数の使い方を工夫する 最大8トラック同時録音ができるMTRで一発録りをする場合は、バラ録りの時よりも、1つのパートに使えるトラック数が限られる。そこで、ドラムに立てるマイクの本数を減らすなどの工夫が必要だ。例えば、8つのトラックを、ボーカル×1、ギター×1、ベース×1、キック×1、トップ×2、スネア×1、ハイハット×1という風にするといい。ドラムのマイクの本数は減ったものの、決して音質が落ちるわけではない。むしろ全体をシンプルに把握できるので、作業がしやすくなることも多々ある。
「被り」をどのように防ぐかが、いい音で録るポイント 一発録りを高音質で行うポイントは、音の「被り」をいかに防ぐかにある。一番気を使いたいのは、ドラムのマイクに、他のパートの音が入らないようにすることだ。具体的な対策としては、簡易的なパーテーションを作って音を遮断するのが有効だ。マイクスタンドなどに毛布をかけて、ドラム全体を囲むように立て、ドラム専用の簡易ブースを作ってやるといい。ただし、全体を覆うと他のメンバーとアイコンタクトが取れなくなるのでその点を考慮しつつ、ギターアンプとの間などを優先的に遮断してやるといい。
一方、ギターアンプ側の対策としては、スピーカーを壁側に向けることで、直接音がドラムのマイクに入らないようにするのが定番だ。ただし、リハスタは壁の素材が鏡面になっていることも多く、こういったポイントは音が反射しやすい。なるべく吸音が施されている柔らかい壁に向けよう。
ちなみに、今回取材したG1スタジオのように、演奏室以外にサブルームがある場合は、そこにギターアンプを入れて鳴らす手もある。こうすればアンプを大音量で鳴らしながらも、完璧な音の遮断が可能だ。
↑ベースはDIを使ってラインのみで録ることで、一切音を出さずに録ることができる。音の被りを避けたい一発録りでは、ベースはライン録音が基本と言えるだろう。
↑ギターアンプはある程度の音量を出す必要があるが、ドラムのマイクへの被りが気になる。そこで、キャビネットを壁側に向けて、直接音が被るのを防ぐ。
↑理想的なのは、このようにドラム全体を覆うようにパーテーションを立てることだ。毛布はキックの中などに詰めるためのものをスタジオから借りるといいだろう。
POINT!入力レベルの決め方 レコーダーへの入力レベルを決める際は、実際に楽器を弾いてもらいながらゲインを上げ、入力レベルのピークランプが赤く点灯しない、ギリギリのところまで入力レベルを上げていく。入力レベルをなるべく大きくして録ったほうが、周辺のノイズが入りにくくなるので音質がよくなるのだ。ただし、本番になると力が入って、リハーサル時より音量が上がることが多いので、録音中にもメーターのチェックは行うようにしたい。
【上手にバンドを録るための3つのポイント】バラ録りではレコーディングの本番前にガイドを作る バンド録音をバラ録りで行う場合は、最初に曲の「ガイド」を作っておくのが一般的だ。ガイドとは、楽曲の構成や雰囲気がわかるデモ音源のようなもので、一番最初に録音するドラマーは、これを聴きながら演奏を行う。スタジオに入る前に、あらかじめ空いているトラックにガイドを入れておくのが理想だが、事前にデモを作れなくても、その場でバンドで演奏して作ってしまってもいい。本格的に録る必要はなく、曲の構成やテンポ、雰囲気が分かるくらいで十分だ。ドラムを録ったら、次のベース録音はガイドを聴きながら録ってもいいし、ドラムだけ聴いてダビングをしてもいい。やりやすい方法を選択しよう。
↑レコーディングを始める前に、とりあえず録音ができるようにセッティングして、バンド演奏をレコーダーに録音しておく。これをガイドにして、ドラムの収録をするのだ。曲構成がわかるように歌も録音しておこう。あらかじめ自宅で作ったオケなどをガイドにする場合は、別トラックにクリックも録音しておくとなおいい。
いい演奏をするためにモニター環境を整える 本番のレコーディングでベストな演奏をするには、モニター環境をしっかり整えることが大切だ。ヘッドホンから聴こえる自分が弾いている音と、レコーダーから再生される他のパートとのバランスを、演奏しやすいように調整しよう。
一発録りの場合は、演奏しやすいモニターの音量やバランスが個々で異なる。多チャンネルのヘッドホンアンプを用意すれば各自で音量を好みに調節できるが、バランスに関しては個別の調整が難しいので、全員が演奏しやすいように偏りのないバランスを決めよう。なお、演奏時のパンニングは、ドラムはセットの並びに合わせてドラマー視点で左右に振り、その他のパートはセンター定位が基本だ。
↑ヘッドホンを最大4台まで接続できるアフェックスのヘッドホンアンプHeadPod454。ノイズに強い構造とサウンドの良さが魅力だ。MTRにこういった多チャンネル型のヘッドホンアンプを接続することで、一度に複数のヘッドホンが使えるようになる。
↑各自で各パートのバランスを決められる「キューボックス」という機材をレンタルしているリハスタもある。こういったものを利用すると、理想的なモニター環境が作りやすい。
より高音質に録りたいなら、録音機材をグレードアップしよう! 実際に録ってみて、「次回はもっといい音で録りたい」と思ったら、手持ちの機材をグレードアップしてみよう。特に、音の入口部分の機材を替えるのは有効だ。例えば、ダイナミックマイクにコンデンサーマイクを1本追加するだけでも、音作りのバリエーションが広がる。
そのマイクを通すマイクプリも1台持っておくと重宝する。全パートに使う必要はなく、例えば「キックだけ、スネアだけ、ボーカルだけ」など、曲の軸となるパートに使うと存在感が際立たせられる。
また、宅録をしている人なら、自宅で使っているモニタースピーカーを持ち込んで、現場でも音を正確にチェックできるようにするといいだろう。
↑スタジオノア代々木店G1スタジオに設置されているモニター、ヤマハMSP5 STUDIO。このようなモニタースピーカーがあると、録音後のチェック用として重宝する。
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