音楽コラム集
2016.09.18
【「極悪レミー」を観て故人を偲ぶ極私的追悼文】 2015年12月28日、レミー・キルミスターが世を去りました。 レミーは言わずと知れた爆走極悪ロックンロールバンド、モーターヘッドのリーダー。強烈なダミ声と、破壊的な歪を効かせたリッケンバッカーベースの爆音でその名、そしてその音をとどろかせました。2015年8月にフジロックに出演しており、その後も11月までツアーを継続していたので彼の死は本当に寝耳に水、と、いいますか「レミーが死ぬ?アホぬかせ!」としか思わなかったのですが、残念ながらそれは事実でした。26日はレミーの誕生日で70歳になったばかり。しかしその後の報道ではその日に自身がもう手のつけられない状況の癌に侵されていたことを知ったとのこと。その告知を受けてもレミーは「そうか、死ぬってか。」と淡々としていたそうです。その2日後になくなったのですが、自分としてはレミーは悔しかったに違いないけど、「よしこれで終わり」ということにしたのだろうか、と思いました。モーターヘッドの相棒、ギターのフィル・キャンベルとミッキー・ディーは、レミーが治療のためのモルヒネ投与を開始するから今のうちに会いに来いと連絡を受けていたが間に合わなかったとインタビューで答えていました。モルヒネ投与は意識をもうろうとさせるため、もうまともな会話ができなくなってしまうからです。ほぼ25年間ともにやってきた仲間の胸中を思うと、ファンとしてもいたたまれないものがあります。彼らはモーターヘッド終了を宣言し、ミッキーは葬儀でレミーに惜しみない賛辞を送りました。 ここから極私的な内容となりますが、私がモーターヘッドを好きになったのは、個人的に大好きなバンドが猛烈なリスペクトを表明していることからの影響だったので、だいたい20世紀末頃の話だったと思います。当時の自分は「ガレージパンク」というジャンルに物凄くドハマリしていました。ガレージパンクと一言で言いましても(狭い範囲で)いろいろなバンドがおりまして、サイコビリー、サーフ、ロカビリー、ラモーンズ(もはやこれはジャンルです)、サイケ、初期パンク、初期ハードコアなどなど、初期衝動をそのまま音にした音楽からの強い影響を受けた方々ばかりです。共通の合言葉は「ロックンロール!!」で、そんな彼らの共通のお気に入りがモーターヘッドでした。当然、ルーツを重んじるガレージパンク主義者だった自分もモータヘッドを聴くようになりました。 当時のバイト先のメタル・ドラマーもモーターヘッドが大好きでした。ここが凄いところで、メタルとパンクはいまでは共存できないように語られますが、モーターヘッドにおいてはそんなジャンル分けは無用なのです。その証拠に2000年にまだ新宿にあったリキッドルームでモーターヘッドのライブを見ました。時間にして2時間半くらいの特濃なライブでした。"We are Motorhead、We play Rock 'N' Roll !"と一言キメてから始まったその音はまさに爆音!なのですが、懐の深い爆音でただうるさいだけじゃなく全身の皮膚が心地よくビリビリしてライブが終わったあとには血行が良くなりました。実物のモーターヘッドを目撃し、爆音を浴びる一方で自分の目を引いたのは客層でした。鋲だらけの革ジャンに身を包んだパンクス、全身ヘヴィメタルなメタル小僧、見た目もレミーみたいなガチのバイカーに到ってはいったい日本のどこにこんな方々がいらっしゃったのか(本当にヘルズエンジェルスみたいな格好の方々ですよ!)と本当に驚きました。とにかくバイオレンスフルなルックをしたガイズ達、自分みたいなモヤシっこ、そしてデブと本当に幅が広かった。レミーは常々言っている。モーターヘッドはメタルでもパンクでもハードコアでもない「ロックンロール」だと。まさにレミーの言葉通りの空間がそこにあったのでした。 レミーの複雑なようでそうでもなさそうで、やはり複雑そうな人柄に肉迫したドキュメンタリー映画が2010年公開の「極悪レミー(原題:Lemmy)」です。なんちゅう邦題と思う向きもあろうかと思いますが、これは名ライヴ盤"No Sleep 'Til Hammersmith"が当初「極悪ライブ」というこれ以上はまりようのない邦題をつけられていたことに由来します。もとい、2006年から3年ほどレミーの自宅や楽屋、いきつけのバー「レインボー」などを追っかけまくったこの映画は、生身のレミーを見ることができる素晴らしい映画です。「生身の」とか書くと、なんだかレミーにははまらないのですが、要するにレミーはいつだってレミーだということが分かります。いままでの「レミー伝説」を裏付けていく数々のエピソードはもちろん、多くのミュージシャンによる賛辞、暴露、リスペクトも彼の人物像を浮き彫りにします。特にメタリカのラーズ・ウルリッヒにまつわるエピソードはロックンロールハイスクールの教科書の1ページ目に載せたいくらいのエエ話です。また、ビデオゲーム好きで有名なレミーが自宅でゲーム、バーでゲーム、しまいには携帯電話に入ってるゲームまでカメラそっちのけで没頭している様が見られます。あと「山の上で雷に打たれて死にたい」とぶちあげたあとに、「まぁ、実際は病院のベッドで死ぬんだろうな」とションボリとこぼすあたりには個人的に、この人なら一生を捧げられる!と思わずにいられませんでした。もちろん、ライブ映像もめちゃくちゃカッコいいのです。 ロックンロールが大好きで見たことがない人は絶対に後悔しないので見てください。 モーターヘッドを知らない人でもきっとレミーが好きになるので見てください。 レミーが逝ってしまって世界は少しつまらなくなるかもしれませんが、レミーはそれが理由で僕達がしけたツラをするのは我慢できないはずです。モーターヘッドの音楽を爆音でかけ、この映画を観て大いに笑い、コーラのジャック・ダニエル割りで乾杯しましょう。 レミーのために! Born to Lose , Live to win ! 映画「極悪レミー」公式サイト http://www.lemmymovie.jp/top.html ※画像はWikipediaより (NOAHBOOK 高橋真吾)
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