音楽コラム集
2019.04.13
2019年アカデミー賞4部門を受賞!世界中で異例の大ヒットとなった今作。
日本でもお馴染みの伝説的バンド、QUEENの歴史をボーカリストのフレディ・マーキュリーを中心に描いた伝記映画だが、制作過程や史実との違いについて色々と物議を醸している作品でもある。
【あらすじ】
1970年のロンドン。主人公のファルーク・バルサラ(ラミ・マレック)は中東系移民という自身の出自やルックスにコンプレックスを抱えながら空港の荷物係として働いていた。
その後彼は「フレディ」と名乗りブライアン・メイ(グウィリム・リー)とロジャー・テイラー(ベン・ハーディ)のバンドに自分を売り込む。
その後ジョン・ディーコン(ジョー・マッゼロ)を加え「QUEEN」を結成したフレディ達はスターダムをのし上がるが、その中でフレディは自身の抱える様々な問題と向き合うことになる。
【主演ラミ・マレックの熱演】
まずQUEENメンバーのキャスティングが絶妙! ひと目見ただけでも製作側の意気込みが伝わってくる。
髪型やひげ等、パッと見の印象だけでなく、楽器や服装の細かいディティールまで4人とも完璧に似せている。
中でもブライアン・メイ役のグウィリム・リーはあまりに激似でブライアン・メイ本人に「本当に自分のように見えた」と言わしめるほど。
そしてフレディ役のラミ・マレックは約1年をかけて完璧な役作りをこなした。
楽器の演奏や歌唱だけでなく、フレディ独特の一種の見得にも似た「あの動き」を専属のムービングコーチと一緒に研究を重ねた。
また、ライブ映像だけでなくラジオやインタビューの音声も取り寄せ、あらゆるアーカイブからフレディの細かい仕草一つひとつを身につけていった。
伝記映画を作るなら誰しも「完璧な本人役」を期待するだろう。それが世界的スーパースターならなおさらだ。
だが結果的にマレックは自身の意志と努力によって世界中の期待に応え、想像を超える結果を出した。
【史実との違い】
今作ではQUEENメンバーを忠実に再現しようというスタンスとは対照的に、QUEENやフレディに起きた出来事については事実から改変されている箇所が少なからずある。
特に終盤のLIVE AIDにまつわる出来事については時系列のズレや事実と異なる表現が多い。
こうした事実を曲げてまでドラマを過剰に「盛って」しまった事に対し、古参のQUEENファンから批判が集まっている。
ただ伝記映画というものは多かれ少なかれ脚色される事が常であるし、今作も最後まで観れば、なぜこういった改変が必要だったのかは理解できる(受け入れられるかどうかは別として)。
ブライアン・メイも「すべての出来事が順序立てて正確に描写されているわけではない。でも、主人公の内面は正確に描かれている。フレディの夢や情熱、強さと弱さが正直に描かれている」と語っている。
【圧巻のライブシーン】
今作では要所で非常にクオリティの高いライブシーンが描かれている。
特にクライマックスのLIVE AIDのライブシーンは出色の出来で、今作を観た誰もがハイライトの一つとして挙げている。 ...といってもこのシーンの殆どは視聴者のエモーションを煽るような表現はごく僅かに抑えられている。
余計な演出が入っていない、ただバンドが演奏している「だけ」のシーンなのだ。
しかし我々はこの時点でQUEENが、そしてフレディがどのような思いでこのライブに臨んでいるか、その背景を十二分に理解してしまっている。
フレディは劇中でひたすら悩み続けてきた自身の抱える問題(移民の子という出自、同性愛者として社会から差別され、真の理解者が現れなかった事)や困難(エイズにより余命が限られている状況、LIVE AID当時はQUEENが落ち目のバンドとして世間から軽んじられていた事)を受け入れた上で、「悲劇の主人公になんかならない。俺が何者かは俺が決める。」と語る。
そして他のメンバーと共に「QUEENという家族」としてこの困難を乗り越えようとしているのだ。
だからこそ、このライブはハグレ者の孤独を歌う「Bohemian Rhapsody」で始まり、 時代遅れだけど、かけがいの無い存在だと歌う「Radio Gaga」に繋ぎ、 逆境に負けず命の限り戦うと誓う「We are the champions」で大団円を迎える。
そしてエンディングの「Don't stop me now」で「こんなに楽しんでいる俺を止めるてくれるな」と人生を謳歌するかのように歌い上げている。
先に挙げた史実の改変を含め、全てがこの20分間の爆発的なクライマックスのために積み上げられている。
更にQUEENのドラマティックな楽曲が圧巻のパフォーマンスで映し出されているのだから、そのパワーに視聴者は半ば強引に感動させられてしまう。
【まとめ】
フレディ・マーキュリーの伝記映画を作るなら、悲劇のヒーローとしてお涙頂戴な作品にすることも出来ただろうが、今作はそういった着地をせずにポジティブなメッセージで締めたことで非常に抜けの良い作品になっている。
QUEENやフレディをよく知らないという人でも問題なく入っていける間口の広い作品なので、なるべく音響設備の整った環境でぜひ視聴して欲しい!
雑誌「Sound & Recording Magazine」の2019年5月号に今作の音響スタッフのインタビューが掲載されているのだが、非常に面白い内容なのでぜひ一読してもらいたい。
個人的にはロッキーをはじめとした「逆境に負けない男映画」好きに激推しできる作品である。
筆者は今作を視聴した後映画館のトイレで泣き、実際のLIVE AIDの映像を視聴して号泣し、某漫画でフレディのパロディキャラを見かけて危うく泣きそうになるという貴重な経験をした。
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