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音楽コラム集

【コラム】音楽と映画 第4回「ピンク・フロイド/ザ・ウォール」

2009.03.27

dvd.jpg ?孤高のバンド、ピンク・フロイドのその後を決定付けた問題作の映画化。? ピンク・フロイドがアルバム「ザ・ウォール」を発表したのは1979年。 今年は「ザ・ウォール」誕生30周年という年になる。 「ザ・ウォール」はひとつの物語を台詞ではなく曲で展開するロックオペラ形式のアルバムだ。一人のロック・スターがスターダムにおぼれる中で孤独、疎外感、コミュニケーション不全から徐々に精神のバランスを崩し心に壁を築いていく。彼は自分だけの世界の中で少しずつ発狂、暴走していくが最終的に自らを断罪し、心の壁を破壊する。バンドにとって初めて全曲新曲での2枚組、まさに大作だった。 当時のイギリスはパンク・ムーヴメント真っ只中、3分間1曲に全ての力を注ぐ若者たちが破竹の勢いで台頭していた。そんな状況で世に問われたこの90分間の組曲の評価は暗鬱、冗長、散漫、自己満足など決して良いものとは言えなかったが、アルバムにこめられた普遍的なメッセージは世代を超えて受け入れられ、現在でも多くの人々に影響を与え続けている。ただ、「産みの苦しみ」は相当なものだったようで、製作の過程でメンバー間の軋轢が明確なものとなり、作品の原作者であるロジャー・ウォーターズの判断でアルバム完成後にキーボード担当のリック・ライトが脱退。後のツアーではサポートメンバーに格下げ、映画版ではクレジットを外された。このロジャーの独裁的な振る舞いがデイヴ・ギルモアの不信を買い、後の解散への布石になってしまった。 「ザ・ウォール」は音楽以外でもケタはずれな作品だった。コンサートでは「ザ・ウォール」の全曲が収録順に演奏された。ステージと客席の間には少しずつダンボールのブロックで壁が築かれていき、中盤で高さ20メートルの壁が完成。その壁にジェラルド・スカーフによるシュールなアニメが映写され、壁の前に時折現れるメンバーと競演、クライマックスではその壁が一気に崩れ落ちるというスペクタクルショーを見せ付けた。その規模から4都市のみでの公演に終わってしまったが、ベルリンの壁が崩壊した1989年、ロジャー・ウォーターズのソロ名義でベルリンのブランデンブルグ門前で再演している。 1982年の映画版では後に、「ザ・コミットメンツ」、「エビータ」などの音楽映画も手がけるアラン・パーカーが監督。ステージと同じジェラルド・スカーフのアニメを実写映像に組み込み、物語を補填する新曲も2曲付け加えられた。主演のボブ・ゲルドフの体当たりの熱演が主人公の狂気をうまく体現している。後にロジャー・ウォーターズが指摘するように血生臭く、陰惨な印象が強くなってしまったきらいはあるが、ピンク・フロイドを語る上で重要な作品として仕上がったことには間違いない。 2006年の音楽イベント、ライヴ8で25年ぶりにピンク・フロイドの4人がステージに揃った。その後も再結成の要請は多かったが、実現することがないまま昨年リック・ライトが死去。 黄金期を築いたメンバーでのライブはもう見ることができない。 live.jpg そして今年3月、「OFF THE WALL?PINK FLOYD SPIRIT」と題して、ピンク・フロイドの芸術をステージ上で再現するグループThe spirit of pink floydの来日公演が行われた。3月15日、昭和女子大学人見記念講堂の17時の公演を観た。 ピンク・フロイドはステージの照明と音響に非常なこだわりをみせたバンドだった。円形の映写スクリーンを囲むようにして配置された可動式の照明「ヴァリ・ライト」を一般的なものにしたのも彼らだ。今回の公演のステージ上にもヴァリ・ライトが設置されていた。そのほかにも各種照明器具やレーザー装置が設置されていることから、規模は小さいながらも音楽だけではなくピンク・フロイドの作り上げたステージ芸術そのものを再現する試みであることがわかる。 日本では外人レスラーの入場曲としてお茶の間を沸かせた名曲「吹けよ風、呼べよ嵐」の印象的なベースのイントロから、最終曲「コンフォタブリー・ナム」のギターソロ終了までのおよそ90分間、幻想的な照明に包まれて力のこもった説得力のある演奏が繰り広げられた。 下手にアレンジをいじるようなことは一切なく、オリジナルなギターやサックスのソロを挟みつつも原曲に忠実であろうとする姿勢は好感が持てた。バンドのメンバーはメイン・ボーカルを据えてコーラス、サックス、サイドギターを合わせて8人の大所帯。ピンク・フロイド世代というわけではなく若い年齢層で構成されているようだった。ボーカルのアンディ・ギブソンは、フロイドの曲、特にギルモアの書いたメロディーをよく理解しており好演だった。サイド・ギターのステラも「虚空のスキャット」では熱唱を披露した。 ショーとして観ればよいのか、ライブとして観ればよいのか、観客の間にも当初は戸惑いが見られたが、緩急織り交ぜた選曲は効を奏し、終演時は座席から立ち上がって拍手している観客も多かった。オリジナルメンバーでのステージが二度と見られない今ではこうした試みはとても貴重と言えるだろう。 「ピンク・フロイド/ザ・ウォール」 作品データ 1982年英国映画 監督:アラン・パーカー 脚本:ロジャー・ウォーターズ(映画用脚本&「ザ・ウォール」全曲作詞) 音楽:ピンク・フロイド(ロジャー・ウォーターズ、デイヴ・ギルモア、ニック・メイスン、リック・ライト) 主演:ボブ・ゲルドフ DVD:ソニーミュージックより発売中 「OFF THE WALL?PINK FLOYD SPIRIT」 2009年3月15日 昭和女子大学人見記念講堂 招聘:テイト・コーポレーション SET LIST One Of These Days Dogs Of War Time Learning To Fly Echoes (短縮して演奏) Money Hey You Run Like Hell Shine On You Crazy Diamond Young Lust Us And Them Any Color You Like Brain Damage Eclipse The Great Gig In The Sky Wish You Were Here Another Brick In The Wall Pt.2 (encore) Comfortably Numb