音楽コラム集
2015.07.04
ゲロッパ!! ついにジェームス・ブラウンも映画になる時代となった。彼の人生をファンキーにグルーヴィにたどる映画「ジェームス・ブラウン 最高の魂を持つ男」だ。「ショウビズ界で最も働く男」を自負した破天荒な男の半生を描き出す。プロデュースはミック・ジャガー、おもしろくないわけがない。この映画を見たなら、きっとJBの音楽の虜になることだろう。そんなあなたにぜひオススメなのがJBのライヴ盤だ。 【ライヴ盤でたどるファンクの発明】 半世紀にわたるキャリアで最もエキサイティングな期間は、1960年代半ばから1970年代にかけての10年間だろう。そして、この時期に数々のファンク・クラシックを世に放ちつつ、数多くのライヴ盤を発表している。時代を追って聴くと、JBの音楽の変遷をわかりやすくたどることができる。必聴盤として名高いアルバムをピックアップして、ファンク完成までの道のりをたどってみよう。 【JBのパフォーマンスを全米に知らしめた「ライヴ・アット・ジ・アポロ」】 まず、JBの初のライヴ盤「ライヴ・アット・ジ・アポロ」(1962/KING)。彼は、とにかくライブに自信があった。ホーンはもちろん、ストリングスまでそろった大所帯のバンドは、時に20名を越えた。そして、バンドを熱狂的、圧倒的にコントロールし、圧巻のパフォーマンスを見せつける。彼のライヴ盤は、そのおそるべき統率力の記録でもあるのだ。このアルバムは、1962年10月24日のアポロシアターでの公演をレコーディング。翌年リリースするなり、爆発的なヒットを記録した。 ここで聴けるのは、まだソウルシンガー然としたJBだが、ゴスペルなど彼のルーツから、ファンクの萌芽までをあますことなく披露している。バラード「ロスト・サムワン」は、原曲は3分ほどだが10分に引き延ばされ、その間、JBは観客をとにかくいじり倒し、焦らしまくる。ゴスペルのようにコール&レスポンスを繰り返す。歓声から罵声まで、観客の反応も様々だ。アルバムは、有名曲のメドレーから怒涛の高速アレンジを施された「ナイト・トレイン」で幕を閉じるが、聴き終わったあとに、すさまじい高揚感を残す。リリースするなり、黒人向けラジオ局から人気に火が付き、66週チャートインの大ヒットを記録。JBは、晴れてスターの仲間入りをした。 【ファンク誕生の記録! "Say It Live And Loud"】 バンドは、ドラムのメルヴィンとサックスのメイシオのパーカー兄弟を迎え、ますます進化を遂げる。JBのリズムへの傾倒はより強いものとなり、64年から立て続けに発表した「アウト・オブ・サイト」、「パパのニューバッグ」、「アイ・ガット・ユー」で早くもファンクのマナーを確立。すべての楽器が、それぞれのリズムを強調しキープすることで大きなうねりを作り出す。映画の中でも、JBはバンドのすべてのパートのメンバーに対し、「お前たちが持っているのはドラムだ!」とゲキを飛ばすシーンがあるが、これこそJBの音楽の本質を突いた描写と言える。彼自身のボーカルも、次第に打楽器的なアプローチに変わっていく。それは、表向きはリズム&ブルースでありながら、まったく新しい音楽だった。これが、ファンクとなった。 このころの破竹の勢いのJBをとらえたライヴ盤の古典は、1968年発表の「ライヴ・アット・ジ・アポロ Vol.2」(1968/KING)だが、ここはあえて"Say It Live And Loud"(1998/Polydor)を取り上げたい。1968年8月に収録されながら30年間お蔵入りになっていた音源だが、これは音楽史上、重要なライヴ盤のひとつだ。メンバーは最初の黄金期のメンバーと言ってよく、メイシオのテナーと、クライド・スタブルフィールドとネイト・ジョーンズのドラム(メルヴィンは兵役で脱退)、ジェリー・ノーレンのギターと聴きどころが満載。とくに12分に及ぶ「コールドスウェット」からの流れは、いつ聴いても鳥肌が立つ。所々に強烈なリズムのヒットが来るが、当時の映像を見るとJBのステージアクトにバンドが見事にシンクロしている。メンバーは難度の高い演奏をこなしつつ、その目は常にJBの動きに注目している。恐るべき集中力だ。高速にアレンジされたメドレーなどは、まるでDJのカットインのように瞬間で曲が切り替わる。一体、どんなリハーサルを重ねれば、このような演奏が実現できるのか! JBがファンクを生み出したのだという気概にあふれた名盤だ。ちなみに、エンディングにこっそり収録されているメイシオによる「物販コーナーに寄ってね」MCもなかなかです。 【JBファンクの頂点、「ライヴ・イン・パリ '71」】 1960年代末に、黒人音楽の新たな地平を開拓したJB。だが、「JB印」の音を守るためにバンドメンバーを契約で縛り、ツアー中の行動も規制し、リハーサルの連続でメンバーには余暇もなかった。メンバーたちはギャラの賃上げ要求に踏み切るが、JBはあっさりこれを却下。急きょ、かねてより目をつけていたバンド、ペースセッターズを呼び出し、メンバーを一新した。そこにいたのが、まだ10代だったベーシスト、ブーツィー・コリンズと兄のギタリスト、キャットフィッシュ・コリンズ。そして、そのメンツで臨んだ新曲が、あの「セックス・マシーン」だ。極めてシンプルであるがゆえのインパクトは、JBファンクの完成形を印象付け、世界的なヒットを記録した。コリンズ兄弟が在籍したのは1年半という短い期間だったが、その貴重な時期、オリジナルJBズと呼ばれるラインナップのライヴを収めたのが「ライヴ・イン・パリ '71」(1991/Polydor)。 JBファンクの真髄を見せつけるオリジナルJBズの演奏はもちろんなのだが、ここで注目したいのがJBの旧友ボビー・バードの活躍だ。誰? と思う方は「セックス・マシーン」を思い出してほしい。ゲロッパ! のあとにゲノ〜ゥナップ! というレスポンスが入るが、その声の主がボビーだ。ボビーは、JBの最初の理解者であり右腕ともいうべき存在。JBは、1950年代ボビーのバンドに加入し本格的な音楽活動に入った。JBは、ボビーを差し置いて強烈なイニシアチヴを発揮。バンドはJBのものになってしまうが、誰よりもJBの才能を理解していたボビーは甘んじてそれを受け入れた。その後、一時はJBのもとを離れるが、JBからの要請でバンドに復帰。1970年以降のハードなファンク・ナンバーの多くで共演し、JBのファンクの完成に大きく貢献した。 ボビーは、このライヴ盤でショーのMCも兼ねていて、ボーカルとオルガンでJBと抜群の掛け合いを聴かせる。のちにバンドの音楽監督となるフレッド・ウェズリーのトロンボーンソロなど、相変わらず各ソロ・パートも充実。その合間を縫いあげるようにシャウトし、一大ファンク絵巻を繰り広げるJBは、ファンクの帝王の貫録十分。このとき、JBは確かに世界中の黒人音楽の頂点に立つ征服者だった。 【ジェームス・ブラウン 最高の魂を持つ男】 この度、公開されている映画でも数々のライヴシーンが登場。上記のライヴ盤と同じステージが再現されているシーンもある。筆者は、主演がチャドウィック・ボーズマンだと聞いたときに、「エディ・マーフィじゃねぇのかよ」と思ってしまったアラフォーですが、ボーズマン、かなりのなり切りっぷりでグッと魅せる。実際の声と演奏はオリジナルのJB自身のものを使用しているので、いわゆる口パクとなるが、撮影時は実際に演奏をしていたというから、かなりの驚きだ。これは、DVDの特典映像に、ぜひ付けていただきたいですね。また、かつてJBのキャリアを救った映画「ブルース・ブラザース」のエルウッドことダン・エイクロイドが、JBのマネージャー役で出演しているのも感慨深い。これは、草葉の陰のJBも喜んでいるのではないだろうか。ともかく、JBを知ってる人も知らない人も楽しめるファンキーなこの映画。ぜひとも映画館の大きいスクリーンと大きい音で見るべし! そこにいるのは、ソウル・ブラザー・ナンバー1! ジェームス・ブラウンだ! (NOAHBOOK 高橋真吾) 「ジェームス・ブラウン〜最高の魂(ソウル)を持つ男〜」 シネクイントほか全国公開中 配給:シンカ/パルコ (C)Universal Pictures(C)D Stevens
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