音楽コラム集|音楽知識系コラム
2012.11.15
今回は、いつもと違って拡大企画です。10月7日22:00から放送されたBSプレミアムドラマ「ドンパル〜海峡を渡った愛〜」の作曲からレコーディング、そして最終の仕上げまでの話をしたいと思います。 レコーディングにあたっては、サウンドスタジオノア代々木店のG1stを使いました。音響効果も担当していますが(作曲してなおかつ音響効果も担当するのは、この業界でも非常にレアなケースです)、この話は次回にしますね。 簡単に、このドラマのあらすじを紹介しておきます。 かつて韓国で世界タイトルマッチ戦にまで登りつめたボクサー、ドンパルは、ピークも過ぎ戦いの場を求めて東京に流れ着きます。 東京でも鳴かず飛ばずの選手生活を送っているとき、たまたま写真専門学校に通う仁美と知りあい、ドンパルは生きる目的を見つけます。家族を持ち、家族を守るためのボクシング。異国の地での差別との闘い、ピークを過ぎた肉体を抱え、それでもタイトルマッチ戦を迎えるのです。しかし...。続きは、ぜひぜひ見てください! ざっとこんな感じのストーリーなのですが、このドラマの難しいところはドキュメンタリードラマであるということです。話の大筋は実話だということです。ドラマとドキュメンタリーの選曲の違いって、みなさんは何だと思いますか? 通常、ドラマの場合は登場人物の心情を表現するために音楽を使いますが、ドキュメンタリーの場合は客観性を大事にするために、あえて情緒的な表現を避けるケースが多いのです。ちなみに僕が大昔担当していた「川口探検隊」はまったくもってドラマ的手法で派手に音楽を付けていて、それがウケていたように感じます。 極端な例ですが、ニュース番組で首相が退陣したニュースに悲しい音楽とかドラマチックな音楽を付けたらおかしいですよね。バラエティになっちゃいます。あくまで音楽はフラットに付けて、人物の心情は受け手の判断に委ねるのがドキュメンタリーの基本です。受け手の感情をリードするように付けるのがドラマ的、ということです。ですからドラマの流れの間にドキュメンタリーの取材を挟んで構成していくやり方は、音楽的に難しいものになります。 思案した結果、「ブルース」と「サムルノリ」の2つのワードが浮かびました。この方向であれば劇伴的な作曲は回避できると思ったのです(この時点でまだ編集も上がっていないので経験則からの希望的観測ですがw)。 サムルノリは朝鮮の伝統楽器である、チャング、プク、ケンガリ、チンといった打楽器を使った韓国の現代音楽です。これをイメージした曲を試合のシーンに使い、ブルースを主人公のテーマにするということで監督の了解をとりました。 当初、制作サイドが選曲での予算しか取っていなかったために、かなり厳しいレコーディングになりました。MAスタジオでレコーディング、というのも考えましたが、ブルースはドラムセットも使うので広さ的に無理という結論。こりゃやばいなと追いつめられて、ふとひらめいたのがサウンドスタジオノアです。確か簡単なレコーディングのできるスタジオがあったなと思い調べてみると、サウンドスタジオノア代々木店G1stにサブルームが付いてことがわかり、これは使える! となった次第です。 アンプやドラムセットなどの常備品も充実しているし、オプションのマイクも種類豊富なので助かります。そして何より1時間当たりの料金の安さは驚きです。 レコーディングにはiMacを持ち込むことにしました。Protools9と003を使用してマイクを直接003に入れてレコーディングしたのですが、このあたりはエンジニアの富永さんにすべてお任せです。富永さんは今回のドラマのMAも担当するフリーのミキサーさん。音響全体を管理してもらえるので作曲、音響効果を担当する僕にとっては心強いスタッフです。打楽器を本田さん、ギターを大橋さんにお願いしましたが、ベースやキーボードはあらかじめセッションを作って録音し、クリック音で合わせてもらいました。 クリックを使ったレコーディングはテンポが変わらなければ難しくないのですが、今回の曲、とくに打楽器の曲は拍子が目まぐるしく変わるわ、テンポは変わるわ、でもって6/8拍子、テンポ♪=230なんてハイスピードはあるわで、汗だくで演奏してもらいました。本来は4人の奏者がライブでグルーブしていくわけで、 それをクリックでこなしていくのには正直かなり衝撃を受けました。プロの凄さですね。 韓国の打楽器はゴング系から太鼓系まで、かなり強く叩くので収録が難しいかなと思っていたのですが、SM58を打面に、Bluebirdをアンビエンス狙いでうまく録れました。ただ、チン(ゴングに近い楽器)はそれだけだと音の揺れがでてしまうので、さらにSENNHEISERの416を背面から中心に向けてねらって録りました。私と同じく初めてG1stを使った富永さんもストレスフリーだったそうです。 朝10:30からセッティング、12:00ころから韓国打楽器の録音を開始。4つの打楽器を順番にクリックに合わせてレコーディングしていきました。その後、テーマとなるブルースの録音を開始。これもスライドギターはあるわ、ハンマリング(注:弦を叩いて鳴らすギターの奏法)はやたら多いわ、オープンチューニング(注:レギュラーでないチューニング)はあるわと、本当に注文が多かったのですが、さすがプロ、涼しい顔してクリアしていくのには恐れ入りました。みんなそれぞれがその仕事でメシ食っているんだなと、ちょっと感動でした。全10曲、終了は19:30でした。 今回G1stを使っての全体的な感想としては、小規模の録音には十分対応でき、制作費が削減される今日、使い方次第でプロの現場にも対応できるコストパフォーマンスの高いスタジオだなと感じました。さらに、スタジオを出てすぐ横に専用の扉があって、車を横付けして機材を出し入れできるところがすごくいいです。時間と労力の節約におおいにかってくれます。 次回は、この番組の効果音についてお話ししますね! 中島 克(なかじま まさる) 有限会社サウンド・デザイン・キュービック代表取締役。1985年、東京サウンドプロダクションを退社後、キュービックを設立。TSP在籍時には、テレビ朝日「川口探険隊」の選曲を担当。独立後は、「今夜は好奇心」 「驚き桃の木20世紀」などの番組も担当した。現在は「星新一のショートショート」「美の巨人」など楽曲制作も含め幅広く活動している。 [サウンド・デザイン・キュービック ]http://www.cubic-power.net 「ハナばあちゃん!! オリジナルサウンドトラック」価格 1,500 http://odate-movie.jp/hana
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