音楽コラム集|音楽知識系コラム
2013.12.26
10月だというのに30度超えは、なかなか体にこたえますね。 前回、完パケになったVTRからどうやって音の設計をしていくのか、その流れをお話ししました。SEも付け終わっていよいよ選曲に入るわけですが、その前にちょっと。 先日、T社のプロデューサーから仕事の依頼の電話をもらいました。そのプロデューサーは、以前はバリバリのドキュメンタリーの演出家で、彼が演出する際には必ず声をかけてくれていたのですが、若い人材を育てるという会社の方針で番組全体を仕切るプロデューサーになったわけです。で、そのプロデューサーが申し訳なさそうに「今回演出を担当するディレクターが、中島さんとやるのをビビってるんですよ〜」とおっしゃる。聞くと、昔、彼とやった番組でADをしていたそうで、こっちは記憶にないのだけれど、どうもそのころの僕はそうとう「とんがっていた」らしく、打ち合わせはしないし(でき上がったVTR見ればわかるという理由で)、付けた音は絶対変えないし、AD君からしてみるとかなり怖い存在だったらしいのだ。そういう時代があったんですよね。裏を返せば、「自分の付けた音に責任を持つ」。 ひとつのテレビ番組を作る、ということは当然複数の人たちが集まって行う共同作業です。現場では、演出家を中心にして、カメラマンや音声さん、照明さん、ロケが終われば編集マンや音効さんと、それぞれが「この番組はこういうことを表現したいんだな、伝えたいんだな、だったらこうした方がいいな」といったことを常に考えながら仕事を進めていくわけです。音効さんは、演出家がどういう音を欲しがっているのか、この番組はどういう音を付ければ良くなるのか、を考えるわけです。 実は、この演出家との擦り合わせが非常に難しい作業なのです。お互い育った環境も違えば音楽的な経験も好みも違うわけで、この擦り合わせ作業を怠ると、現場で演出家と揉めることとなり、逆に成功すれば演出家がイメージしていたものをはるかに超えるものとなるのです。 演出家のイメージを超えた音付けこそ音効の醍醐味と言えるでしょう。だから、さまざまな音に耳をすまし、いろいろな音楽を聴き、どういうシーンにどういう音をつければ映像との化学反応が起こるのかを常日頃から考える。編集の上がった作品を何度も見返し、演出家の表現したいことをVTRから読み取る。時には、ちょっと近くまで来たから、などと言って編集に顔を出したり、音声さんと連絡を取って効果音の相談をする。こうして現場に臨むことこそ、自分の付けた音に責任を持つということなのです。いつもこのレベルで仕事をしていると、次第に演出家からの仕事の依頼も増えネットワークが広がっていくのです。 僕も、最近は演出家と打ち合わせをするようにしています。怖がられると仕事がもらえませんから(笑)。 中島 克(なかじま まさる) 有限会社サウンド・デザイン・キュービック代表取締役。1985年、東京サウンドプロダクションを退社後、キュービックを設立。TSP在籍時には、テレビ朝日「川口探険隊」の選曲を担当。独立後は、「警視庁24時」「驚きももの木20世紀」「星新一のショートショート」などの番組も担当した。現在は、「美の巨人たち」「THE追跡」「Song to Soul」など楽曲制作も含め幅広く活動している。 [サウンド・デザイン・キュービック ]http://www.cubic-power.net
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